日本語教師の仕事は、学生に日本語を教えるだけではありません。
学生の卒業後のキャリアを一緒に築くのも、日本語教師の重要な仕事です。
日本語学校の留学生のほとんどは、卒業後に大学・専門学校などに進学します。
そのため、学生ができるだけ良いキャリアを築けるように、日本語教師が適切に進学指導をする必要があります。
ここでは、進学指導をする上で役に立つポイントを紹介します。
目次
【日本語教師が知っておくべき進路指導】学生の進路の種類について
日本語学校に通う留学生の進路には、大きく分けて進学と就職の2つがあります。
さらに進学には、大学院への進学、大学への進学、専門学校への進学の3種類があります。
留学生のほとんどはこの3つのいずれかに進学しますが、2019年4月から特定技能制度が開始したため、日本語学校卒業後に進学せずに就職するという留学生も増えています。
以下では、それぞれの進路指導の重要なポイントを紹介します。
【日本語教師が知っておくべき進路指導】大学院・大学・専門学校への進学の場合
大学院への進学の場合
大学院への進学の場合、まず母国で大学を卒業している必要があります。
さらに日本語能力試験N1以上の日本語力が必要ですが、これは必ず持っていなければならないというわけではありません。
ただそれ相当の日本語力が必要だということです。
試験の際に研究計画書を提出します。
大学院希望者がある程度いる学校では、大学院希望者だけを集めて研究計画書の書き方指導ができるのですが、そのような学校は少ないです。
あとは、研究がメインですので、自分に合う教授探しも大変です。
良い指導教官が見つかれば、あとは研究計画書や書類を提出して受験します。
大学への進学の場合
大学への進学では、日本語能力試験の成績よりも、留学試験(EJU)の成績が大切です。
試験は1年に2回しかありません。
日本語試験のほかに、文系科目、理系科目の試験が必要とされているところもあります。
日本語学校内で留学試験対策を組んでいる学校は多いと思いますが、日本語科目だけの対策の場合が多いと思います。
文系科目や理系科目の部分に関しては、「塾」へ通っている学生も多くいます。
塾へ通っているのは中国人学生がほとんどですが、日本語学校で勉強したあと、塾へ行って、留学試験の勉強をするので、アルバイトの時間はありません。
塾に通える学生は、経費支弁が安定している裕福な学生です。
日本語試験の成績、科目試験の成績でその大学の試験が受験できるか、目安がわかります。
最近、中国人学生の増加で大学のレベルがあがっており、少し前までは200点あれば、どこかの大学に入れるだろうという目安のようなラインが今は230点以上になっています。
また、定員厳格化の影響で、留学生の合格者が減ってしまい、東京の大学をあきらめ、地方大学を目指す学生も増えています。
学校探しは、日本人と同じです。
オープンキャンパスへ行って、学校探しをして、気に入った学校があれば募集要項を確認して、応募できるかどうか確認して出願、そして試験です。
最近はオンライン出願も増えてきました。
専門学校への進学の場合
専門学校は、良い学校から悪い学校まで、ピンキリです。
年間60万円から授業を受けられる専門学校もあります。
きちんと勉強したいことが決まっている学生は良いのですが、日本の専門学校を全然調べていない学生や、学費を払うのが難しい学生、日本語力が低い学生の進路指導には注意が必要です。このような学生の進学先は、留学生だけのクラスがあったり、学校中に日本人がほとんどいない学校ということもあります。
日本語学校から専門学校に進学し、専門学校から日本で就職をする場合、専門学校で勉強した内容を使った仕事でなければ、入管から就労ビザがもらえなくなっています。
たとえば、ビジネスの勉強をした学生が、自分がずっとアルバイトを続けている居酒屋からホールの仕事として内定をもらっても、ビザをもらうことはできません。
そのため、自分の将来の目標に合った学校なのかをしっかりと相談し、志望校を決めます。
学校の探し方は、面談→将来の希望確認→専門学校の紹介→説明会への参加→出願先決定→願書作成、提出→入試です。
大学と異なる点は、卒業後に就職をしたい場合、やりたい仕事と同じ勉強をしなければならないので、学校を紹介する前に、きちんと希望を聞く必要があります。
専門学校に進学する理由が、先輩が入れたから、試験が簡単だと聞いたから、友だちの紹介があるから、などの理由の学生は不合格になることが多いです。
日本人が聞いたことがない専門学校も多数あります。
また、大学や大学院志望者と異なるのは、特段入りたい学校がないということです。
教師の側で学校を紹介することが圧倒的に多いと思います。
そのため、学校の雰囲気、レベルなどについて、できる限りの情報収集は必須です。
募集要項には日本語能力試験N2相当と書かれていても、実際入学できている学生たちを見るとN4~N3だったりします。
試験問題より、面接重視だという学校もあります。
そのような情報は、頭に入れて学校紹介をする必要があります。
【日本語教師が知っておくべき進路指導】個人面談・書類作成
個人面談をいつ頃行うのかは、学校ごとに大きく異なります。
個人的には、遅くても1年次の冬には、何かしら行うべきだと考えています。
それより早くから実施している学校もあります。
個人面談でどのようなことを話すか、これも学校や先生により異なります。
私はもちろん将来の夢の確認はしますが、それよりも提出書類について必要以上に確認しています。
特に以下の書類は確認が必要です。
- 健康保険証
- 銀行通帳
- 卒業証書と成績証明書
- 課税証明書
- 現住所の確認
健康保険証
お金を払っていない学生が多いです。出願時期に保険証が切れる学生が多いです。
お金を払っていないないため、新しい保険証がもらえず出願が遅れることを避けるためです。
銀行通帳
アルバイトは28時間と決まっていますが、守れていない学生がいることも事実です。
28時間以上のアルバイトの給料が、同じ通帳に入っている学生がいます。
通帳がきれいかどうか、また通帳の記帳をきちんと行っているかどうか。
「合算」表記がある場合、受け付けませんので、明細の発行が必要です。
また、貯金が全くできない学生もいますん。私は預金残高6円という通帳を見たことがあります。
それで出願しても合格できるとは思えないので、せめて20万くらいは入れるよう指導します。
卒業証書と成績証明書
これらは原本を出願当日に提示します。日本にない学生もいますので、早めに母国から郵送してもらうよう指導します。
課税証明書
一昨年の所得合計金額を確認しています。最近は提出を求められる学校が増えました。
多すぎると合格させてもらえません。
現住所の確認
引っ越ししているのに、在留カードの住所を変更していなかったり、在留カードの住所を変えたのに学校に伝えていない学生もいます。
書類に住所を書きますので、現住所、携帯電話番号は常に最新のものか確認が必要です。
N4、N3レベルの学生たちは、進学用の願書の作成ができません。
どこに何をかくのか、一緒に確認をしながら進めます。下書きをしてから、ボールペンで清書です。
書類も、原本からのコピーの場合、「原本相違なし」のサインと日付、学校印が1枚ずつに必要です。
これがかなりの重労働で、残業のタネですが致し方ありません。
また、推薦書以外にも、調査書を求められる学校もあり、そちらも作成の際は神経を使います。
【日本語教師が知っておくべき進路指導】就職の場合
特定技能制度により、日本にいる留学生が2019年4月から始まった特定技能の試験に合格すれば、高卒でも就職ができるようになりました。
さらに、最近は母国で大学を卒業してから日本へ来て、日本語学校から直接就職を目指す学生が増えてきたように感じています。
そのため、日本語学校卒業後に就職する学生の進路指導をする機会が増えてくると思います。
以下では、就職の場合の進路指導についてポイントを紹介します。
母国で大学を卒業している場合
母国の大学で卒業している場合も、専門学校卒業後に就職する場合と同様に、母国の大学で学んだ内容と就職先の仕事の内容が合致しないと就労ビザが発給されません。
そのため、卒業間近になって、就職できないからどこでもいいから専門学校へ行くと言い出す学生もいます。
このようなことが起きないよう、事前にこのルールを頭に入れ、学生に教える必要があります。
特定技能について
特定技能では、日本語能力試験N4以上+技能試験の合格が必須で、その後、就職先を探して、内定をもらい、入管へビザの変更をします。
なかなか政府が思っている通りに進んでいないので、ビザ発給がこれから一気に進むものと思われます。
特定技能では、最長5年働けます。いきなり5年のビザをもらえるわけではなく、3か月や半年の短期間でのビザ更新を繰り返します。
また、家族を配偶者で呼ぶことが基本的にはできません(一部できる種もあり)。
今年から始まったばかりで、日本語教師の皆さんも成り行きを見つつ、勉強会があれば参加して情報収集している段階です。
【日本語教師が知っておくべき進路指導】進学指導の良いところ
私のいる学校は専門学校志望者が多いので、毎年夏休みを取っている暇はなく、9月1日からの出願開始に備えています。
学生が試験を受けたあとは、結果が来るのを学生といっしょにどきどきして待っています。
書類作成も大変ですし、面接練習を行ってあげる学生もいます。甘えてばかりの学生には怒ることもあります。
それでも、合格したあと「先生、ありがとうございました」と言ってもらえるとうれしいですし、卒業後、進学先でがんばっている様子や、就職できた話などを聞くと、よかったと思います。
学生たちは、こちらが思いもよらない特技を持っています。
日本語は下手でも、受験したいという学生には受験させています。もちろん、明らかに不合格の確率が高いときには、それを伝えて、出願に反対をします。
それでも本人がいいというのなら、それは本人の判断ですから、最後までがんばってくれます。
しかし、先生のアドバイスを全く聞かず、後悔してしまう学生もいます。
それでも、「やっぱり先生の言うこと、聞いておけばよかった。先生ごめんなさい。でも合格もらえてよかった。ありがとう。」そんな言葉が聞けることを楽しみに、進路指導を行っています。
日本語教師キャリア マガジン編集部
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