【インタビュー】vol.1 現役日本語教師が語る、日本語教師の仕事と裏側

日本語教師インタビュー①

あなたが日本語教師になりたいと思ったきっかけは何ですか。なりたい教師像とは?日本語教師という職業を通して、実現したいことは?

わたしたちは様々な憧れや夢によって、巡り合わせと縁によって、時には環境からの制約によって、キャリアを選択し、生きています。
このインタビュー記事では、世界各地で活躍する日本語教師の「物語」に注目し、同じ「日本語教師」というフィルターを通して見える異なる「世界」をご紹介したいと思います。

日本語教師を目指す人、すでに日本語教師として働きながらその働き方に悩んでいる人、語学教育で社会に貢献したいと願う人、そんな人たちのキャリア選択に少しでも貢献できたら嬉しいです。

インタビュー アメリカ公立中学校

「恩師のように」なりたくて

アニカさんは大学卒業後すぐに教員免許を取得し、日本語教師になることを選んだ。

現在、アメリカの中学校で日本語教師2年目に入ろうとしている。

最初のキャリアとしてアメリカの公立学校で日本語を教えることは、決してよくある選択肢ではないだろう。

そんな彼女のキャリア選択のきっかけやお仕事の魅力、これから目指す教師像とは。

「日本語と教育」の熱意に導かれて

私たちが子どもの頃、その長い学校生活の中で、憧れの教師に出会う確率はどのくらいのものなのだろうか。
素晴らしい教師に出会い、その後の人生が変わるという話は、けっして珍しい話ではないが、反対に全ての人に訪れる奇跡でもない。
アニカさんにとっては、それが中学校の日本語教師だった。

「中学のときに、はじめて母国語以外の授業を取りました。そのときの先生は、日本語に深い興味があって、感動したし、その先生の日本語の授業が、なにより本当に楽しかったんです。アメリカでは、日本のアニメやマンガが人気で、勉強する理由のトップになりがちだけど、私は先生のおかげもあって、先に日本語が好きになりました。」

「中学校のときの先生は本当に素晴らしくて、大好きです。ユーモアがあって、授業を楽しくしてくれたし、生徒とのつながりを大切にしてくれました。例えば、生徒一人一人に、日本語でニックネームをつけて呼んでくれたり。私は授業のときよく”くすくす”って笑ってたから、”くすくすchan”って呼ばれました(笑)先生は日本語が本当に好きだったし、生徒たちにも関心をもってくれていることが伝わりました。

それから、単語や文法だけじゃなくて、表現方法についても、たくさん学びました。自分の興味のあるトピックを選んで研究し、日本語で発表する機会もありました。日本の文化について、自分の国と比較して発表する経験は、本当に面白かったです。」

教壇に立って

中学校の先生になる、という選択

 中学校の恩師に憧れたアニカさん。自分も同じように、中学校で日本語教師になることを決意する。

「大学では教育学部に進学し、英文学を主専攻、日本語を副専攻で学びました。高校のときにはすでに、将来日本語の先生になりたいと思っていたけど、それはアメリカでは珍しいことだから、大学では英文学を主専攻にして、まずは教員免許の取得を目指しました。

アメリカで日本語教師になるのは、簡単ではありません。州にもよりますが、私の場合は、大学卒業後にOPI(Oral Proficiency Interview)*とWPT(Writing Proficiency test)**のテストに合格する必要がありました。」

「もし日本語教師でないなら、国語(英語)の先生になったかもしれないけど、やっぱり日本語教師として働けているのは嬉しい。私の州では日本語教師は珍しく、学区の中のすべての学校に行って、日本語を教えたこともあります。」

教師としてキャリアをスタートさせた背景には、恩師だけでなく、母親の影響も強かった。

「実は母は学校の先生で、子どもの時から「自分は先生になるだろう」と思っていました。教師になることが、子どものときから当たり前だったんです。」

日本語教師になるまで、またなった後も様々な壁を超えながら、努力されているアニカさん。日本語教師としてのやりがいは、やはり生徒の「わかった!」の顔にあるという。

「やっぱり、日本語に興味をもってくれて、教えたときに学生の顔がパッと明るくなる瞬間は、とてもやりがいを感じます。もともと、日本語そのものに興味を持って授業を取ってくれる子も多いから、そういう子たちの興味がより深まったり、できることが増えていくのはとても嬉しいです。」

一方で、義務教育ならではの大変さや、アメリカで日本語を教えることの課題も感じているという。

「大変なことももちろんたくさんあります。中学校は義務教育なので、「日本語」の科目に興味がない子もいます。授業に集中しなかったり、ときには意地悪なことを言う子どももいます。

でも、生徒は生徒です。人生は彼らのものですから、私が変えられるとは思っていません。先生として、その子の成長を手伝ってあげることしかできません。そして彼らは、まだ人生や言語を学ぶ途中にいるんです。そういう子とは、本人や親とコミュニケーションをとりながら、できる限りのことをします。できることをするしかないんです。ただ、何か問題があったときにも、私の個人的な問題としては受け取らないようにしています。」

「アメリカという環境や、自分自身が日本語母語話者ではないので、日本語で教材を見つけたり、作ったりするのはけっこう大変で、時間がかかります。また中学校の教材はなかなかなくて、教材を自作する先生も多いです。」

「でも、仕事は絶対に家に持ち込みません。これは職場の人から教わった大切な教えです。良い仕事を長く続けるためにも、スイッチの切り替えや職場外の人間関係も大切にするよう、心がけています。」

*OPI
「ACTFL – Oral Proficiency Interview」の頭文字。全米外国語教育協会(ACTFL)が実施する、主に外国語の口頭運用能力を測るインタビューテストのこと。https://www.actfl.org/assessments/postsecondary-assessments/opi
**WPT
「ACTFL – Writingl Proficiency Test」の頭文字。全米外国語教育協会(ACTFL)が実施する、主に外国語の文章作成能力を測る筆記テストのこと。https://www.actfl.org/assessments/postsecondary-assessments/actfl-writing-proficiency-test-wpt

アジア文化に興味を持ってもらうために

日本語を教えることに留まらず、アジア文化として日本語教育を捉えている彼女の視点もある。
日本語教育が、アメリカに住む若者にとって、アジア文化に足を踏み入れる入り口になって欲しいと、彼女は語る。

「私の授業が、アジアの文化に興味をもってもらう入り口になったらいいと思っています。日本文化はとても不思議です。日本という国があって、日本語という言語があって、日本文化という特別な文化がある。例えばスペイン語だったら、スペイン語を取り巻く国や文化は多岐に渡ります。でもそれが一つの国、独自の文化をもっていることは、とても面白いことです。たくさんの人に、アジアに興味をもってもらうきっかけとして、学んでもらえたら嬉しい。」

言語教育は、言語を学ぶだけに留まらず、学び手のアイデンティティや自己表現、ないしコミュニティのあり方や考え方にも繋がる社会的な教育でもあると、つくづく考えさせられる。そこには彼女のルーツも関係しているのかもしれない。

「私の父はベトナム人なんです。私は自分のことをアジア人だと思っています。もっとたくさんの人にアジアを身近に感じてもらいたいし、アジアに関わりがある人がたくさんいることも知って欲しい。」

恩師の背中を追いかける

日本語教師として駆け出したばかりのアニカさんだが、今後は恩師を目指して日本語教育の専門性を高めたいという。

「日本語そのものが好きだから、日本語の書記体系とか、もっと深く研究してみたいこともたくさんあります。そして日本語のことについてもっと知って、初級のレベルだけでなく上のレベルも自信をもって教えられるようになりたい。

そのためにも、今はもっと実務経験を積んで、いつか日本語教育専攻で大学院に行きたいと思います。実は私の学部のときの教授は、中学校で日本語を教えてくれた恩師が教わった教授と同じ人なんです。だから、私の恩師がいた研究室にまた行けたら嬉しい。」

きっと、アニカさんに日本語を教わって、日本語教師を目指す生徒もいるかも…と、広がる教育の輪に思いを馳せながら、将来の希望に胸が膨らむインタビューでした。

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迎明香

運営情報
日本語キャリアマガジンのライター。日本語教育能力検定試験を独学で合格&日本語教育専攻の大学院を修了。国内教育機関での実習や留学生サポート、公的機関の海外派遣にて日本語教育および教材作成など幅広く経験。
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