オーディオリンガルメソッドは現代の日本語教育でも使われ、日本語教育能力検定試験でもよく出題される重要な教授法です。
この記事では、今年日本語教育能力検定試験を受けようと思っている方や、日本語教師養成講座を受講中の方に向けて、オーディオリンガルメソッドの特徴と関連する用語について解説していきます。
目次
オーディオリンガルメソッドとは
「オーディオリンガルメソッド(AL法)」は、第二次世界大戦中に開発されたアーミーメソッドの流れを受け継ぐ教授法です。
アーミーメソッド
アーミーメソッドは敵国の言語を理解し、通訳、翻訳、暗号解読などを行うために、アメリカ陸軍によって開発された言語訓練プログラムです。
アメリカ人言語学者が英語で文法構造を説明し、ドリルマスター(母語話者)と呼ばれる訓練係に従って基本文を反復し暗記する、という練習法が使われました。
このプログラムが大きな成果を収めたので、その後の外国語教授法に影響を与え、オーディオリンガルメソッドが誕生しました。
提唱者
オーディオリンガルメソッドはミシガン大学のフリーズらによって提唱されました。
そのため、フリーズ・メソッド、ミシガン・メソッドとも呼ばれます。
ではここからはオーディオリンガルメソッドの特徴についてもう少し詳しく解説していきます。
【オーディオリンガルメソッドの特徴①】考え方
オーディオリンガルメソッドは2つの考え方をもとにしてできた教授法です。
一つは構造言語学、もう一つは行動主義心理学です。
構造言語学は、言語構造を分析するためにアメリカで発展した言語学で、言語の基本は音声であり、音素、形態素、語などの要素が規則に従って構成された型(構造)を持つ、という捉え方をします。
行動主義心理学は、スキナーらによる目に見える行動を観察対象とした科学的心理学で、行動は刺激、反応、強化の繰り返しによって習慣形成をおこす、と考えられました。
これらの理論的背景をもとに、オーディオリンガルメソッドでは言語の音声と構造を中心に学び、習慣が形成されるまで大量の反復練習を行うことが重要と考えられました。
一方でコミュニケーションの機能や人の思考はまったく重視されませんでした。
【オーディオリンガルメソッドの特徴②】到達目標
上記のように、オーディオリンガルメソッドは音声を重視するので、母語話者並みの正確な発音が求められました。
また、習慣を獲得するために教師のキューに正確に素早く反応することも重視されました。
つまり、オーディオリンガルメソッドの到達目標は正確な発音と素早い反応による習慣形成と言えます。
【オーディオリンガルメソッドの特徴③】シラバス
シラバスは文型シラバスを採用しています。
文型シラバスは、文法などの形式の指導を中心に起き、易しいものから徐々に難しいものへと積み上げていくシラバスです。
日本語で言えば、「マス形」→「ナイ形」→「なければなりません」の導入、というような順序です。
【オーディオリンガルメソッドの特徴④】指導法
指導も文法、文型表現が中心です(フォーカス・オン・フォームズ)。
文法の型に焦点を置いているので、意味は教えても実際の使用場面や文の内容については考慮しません。
例えば「なければなりません」が「義務」ということは示しますが、状況や使用する相手については触れません。
また、練習は基本的に教師主導の口頭練習で、以下のような練習を行います。
ミムメム練習
模倣(mimicry)と記憶(memorization)という意味で、教師が提示する文の型を模倣して記憶させる練習です。
パターンプラクティス
以下のような文型に関する様々なドリルを行います。
・反復練習:教師と同じことを学習者が反復する。(=ミムメム練習)
T「りんごを食べます」→ S「りんごを食べます」
・代入練習:基本文に対して、教師が言った言葉を学習者が入れ替えて発話する。
基本文「りんごを食べます」
T「パン」→ S「パンを食べます」
・変形練習:教師の発話に対して、学習者は指定の形に変形して発話する。
T「食べます」→ S「食べてください」
T「母は私を叱りました」→ S「私は母に叱られました」
・完成練習:教師の不完全なキューをもとに、文を完成させる。
T「きのう うち りんご 食べます」→ S「きのう、うちでりんごを食べました」
・拡大練習:教師のキューにそって文を拡大していく。
T「食べてください」→ S「食べてください」
T「今晩」→ S「今晩。食べてください」
T「うちに帰ったら」→ S「今晩、うちに帰ったら食べてください」
・結合練習:教師が発話した2文を1文にする。
T「安いです。買います。」→ S「安かったら、買います。」
・応答練習:教師の質問に対して、決められた答えを言う。
T「もうご飯を食べましたか。 はい」→ S「はい、もう食べました。」
T「もうご飯を食べましたか。 いいえ」→ S「いいえ、まだ食べていません。」
ミニマル・ペアの練習
ミニマル・ペアとは語の最小単位の対立(例えば「天気(tenki)」と「電気(denki)」は”t”と”d”の最小限の音の対立)のことで、こういったペアの聞き分けや言い分けの練習を行います。
オーディオリンガルメソッドでは、学習が正確に素早く反応できるようになるまで、こうした練習を大量に繰り返し行います。
【オーディオリンガルメソッドの特徴⑤】長所と短所
それでは最後に、オーディオリンガルメソッドの長所と短所を確認しておきましょう。
長所としては、以下の点が挙げられます。
・教師主導のため、集団教育に向いている
・易しいものから順に学習するため、文法の整理がしやすい
・反復練習によって記憶されやすい
・正しい発音が身につく
一方で、次のような短所もあります。
・文の意味や運用を軽視するため、コミュニケーション能力が育たない
・学習した文型しか使えないため、実際の使用場面で役に立たない
・口頭練習が中心で、読み書きの練習ができない
・練習が単調で、学習者のモチベーションが保てない
・正確さを重視し、誤用を厳しく訂正されるため、学習意欲が阻害される。
これらの短所からオーディオリンガルメソッドへの批判が高まり、その後コミュニカティブ・アプローチをはじめとする、コミュニケーション重視の様々な教授法が誕生しました。
【コミュニカティブ・アプローチとの比較】
オーディオリンガルメソッドの後に誕生した「コミュニカティブ・アプローチ」は、1970年代に広まったコミュニケーションにつながる教授法の総称を言います。
誰が始めた教授法なのかははっきりしておらず、決まった指導法もありません。
オーディオリンガルメソッドの短所を改善しようと生まれた教授法であり、こちらでは、二つの教授法の違いを簡単にまとめました。
オーディオリンガル・メソッド | コミュニカティブ・アプローチ | |
①考え方 |
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②到達目標 |
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③シラバス |
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④指導法 |
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⑤長所 |
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⑥短所 |
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コミュニカティブ・アプローチについて詳細が知りたい方は、以下の記事を参照してください。
→【日本語教育能力検定試験で頻出】 コミュニカティブ・アプローチの特徴まとめ
【オーディオリンガルメソッド】まとめ
こちらの記事では、オーディオリンガルメソッドの特徴を解説しました。
オーディオリンガルメソッドは短所も多くありますが現代ではコミュニケーションも、文法形式もどちらも大切だと考えられています。
そのため、パターンプラクティスは現代の日本語学校でも、特に初級の基本練習としてよく使われていると思います。
長所と短所を整理して、しっかり理解しておく必要があると思います。
【オーディオリンガルメソッドの特徴】
- オーディオリンガルメソッドは、アーミーメソッドの影響を受け、フリーズらによって提唱された教授法である。
- 構造言語学と行動主義心理学を背景とする。
- 正確な発音や文型を覚え、習慣を獲得することを目標とする。
- 文法形式を易→難の順に学ぶ、文型シラバスを採用。
- 教師主導で口頭練習を中心に練習する。
- 正確な発音と文法が身につくが、実際の場面で使えず、学習意欲も保てない。
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