自動詞、他動詞というと英語で習った記憶がある方も多いと思いますが、日本語の扱い方は英語とは少し違います。
この記事では、日本語教育能力検定試験を受ける方に向けて、日本語の自動詞、他動詞について解説していきます。
目次
自動詞、他動詞とは
自動詞、他動詞とは、その動作が他に与える影響が強いかどうかによる動詞の分類です。
・自動詞:他に影響を及ぼす力が弱い、またはない動詞
・他動詞:他に影響を及ぼす力が強い動詞
でも、この基準は意味的な概念で、実際に判別しようとするとよくわかりませんね。
自動詞と他動詞の見分け方
そこで、一般的に以下のような目安で自動詞、他動詞を見分けます。
・自動詞:ヲ格の目的語を持たない動詞
・他動詞:ヲ格の目的語を持つ動詞
簡単に言うと、その動詞に「~を」が必要だったら他動詞、必要なかったら自動詞です。
例えば、「パンを食べる」の「食べる」は「~を」があるから他動詞、「公園で遊ぶ」は「~を」がないから自動詞です。
ただ、少し注意が必要な動詞もあります。
(注意が必要な動詞)移動動詞
移動を表す動詞(移動動詞)は、移動の起点や通過点などの場所を「~を」で表します。
・部屋を出る(起点)
・橋を渡る(通過点)
上の例の「部屋」や「橋」は移動を伴う場所で、目的語にはなりません。
起点や通過点の「~を」があっても移動動詞は自動詞で、目的語のヲ格をとるものだけが他動詞です。
「~を」を持つ移動動詞には、ほかに以下のようなものがあります。
・出発する、離れる、飛び立つ、降りる(起点)
・歩く、走る、通る、飛ぶ、散歩する(通過点)
直接受身を作れるものは他動詞
自他の見分け方として、ほかに直接受身の文を作れるものは他動詞、とする基準もあります。
・「先生が私を叱った」→「私が先生に叱られた」
・「ドアが閉まった」→「閉まられた」??
「叱る」は「私を」を「私が」に変えて受身にできるので他動詞、「閉まる」は受身にできないので自動詞です。
このように、自動詞、他動詞は目的語のヲ格があるかどうか、直接受身の文を作れるかどうか、でだいたい判断できます。
ただ実際には判断に迷うものもあり、辞書によって自動詞、他動詞に揺れがある場合もあるそうです。
自他の対応
「閉まる」(自動詞)、「閉める」(他動詞)のように、意味や形が似ていて以下のような対応があるとき、「自他の対応がある」と言います。
・ ドアが 閉まった。(自動詞)
・Aさんが ドアを 閉めた。(他動詞)
このペアは同じ語源からできたと考えられ、同じ漢字が使われるのが特徴です。
形態上のルール
英語のように自他のペアで形がだいたい同じになる言語もありますが、日本語の場合、形が違うことが多いです。
形が似ているので、学習者にとって自他の対応を覚えるのはとても大変です。
自他の形態上(形)の対応については、一応ルールがありますが、複雑で例外も多いので、学習者に直接教えることはあまりないかもしれません。
ただ、一般的に以下の法則はあるようです。
・-aruで終わるものはすべて自動詞で、-aruを-eruに変えると他動詞になる。(変わる(自)-変える(他))
・-reruで終わるものはすべて自動詞。(売れる(自)-売る(他))
・-suで終わるものはすべて他動詞。(出る(自)-出す(他))
『初級を教える人のための日本語文法ハンドブック』という本に、対応する自他の一覧が載っていますので、もっと詳しく知りたい方は参照してください。
自他同形の動詞
また、日本語にも少数ですが自動詞と他動詞で形が同じものがあります。
自動詞 | 他動詞 |
風が吹く | (Aさんが)笛を吹く |
ドアがひらく | (Aさんが)ドアをひらく |
日程が決定する | (Aさんが)日程を決定する |
店が開店する | (Aさんが)店を開店する |
ゲームが再開する | (Aさんが)ゲームを再開する |
自他の対応を持たない自動詞、他動詞
自他の対応がない場合もあり、ペアがない自動詞を無対自動詞、他動詞を無対他動詞と言います。
・無対自動詞の例:起きる、行く、走る、いる、できる、光る
自動詞で意志のあるもの(起きる、行くなど)は基本的にペアがありません。
・無対他動詞の例:食べる、飲む、撮る、飾る、置く、書く
自動詞と他動詞の使い分け
では、日本語ではこの対応する自動詞と他動詞をどのように使い分けているのでしょうか。
以下のように自動詞と他動詞で同じ出来事を表現できることもあります。
・消しゴムが落ちましたよ。(自動詞)
・消しゴムを落としましたよ。(他動詞)
しかし、次の例はどうでしょうか。
・地震でビルが倒れた。(自動詞)
・地震でビルを倒した…??(他動詞)
自動詞文は自然ですが、他動詞文は明らかにおかしいですね。
どうして他動詞の文は不自然なのでしょうか。
ここからは、主にどのようなときに自動詞が使われるのか、見ていきます。
動作主の有無で使い分ける
自他の対応があるとき、自動詞の主語にはふつう無生物(意志を持たないもの)が来ます。
例えば「ドアが閉まる」と「Aさんがドアを閉める」で考えてみると、自動詞文「ドアが閉まる」の主語は「ドア」で、動作主「Aさん」がありません。
つまり、自動詞の文では動作主(だれがしたか)が問題にされない、と言えます。
動作主が問題にされないのは、大きく以下のような場合です。
・自然現象や自動的に起きるもので、動作主がいない
地震でビルが倒れた。(自然現象)
ボタンを押すと、おつりが出ます。(自動)
・動作主はいるが、あえて言う必要がない
お湯が沸いた。
先ほどの「地震でビルが倒れた」は、自然現象なので動作主がいる他動詞を使うとおかしいのですね。
動作主をあえて言わない場合というのは、動作主(=お湯を沸かした人)より、変化の結果(お湯が沸いた)について言いたい場合です。
このように、動作主が問題にされない文では自動詞が使われます。
逆に、動作主を言う必要がある場合には他動詞を使います。
例えば自分の不注意でコップを割ったことを謝りたい場合、どちらがよいでしょうか。
・コップが割れてしまいました。(自動詞)
・コップを割ってしまいました。(他動詞)
私がした、と言いたいのですから下の他動詞文の方が自然です。
動作と変化で使い分ける
上で見たように、自他の対応があるとき、自動詞は出来事が自然に起こったように表され、他動詞は出来事が人の意志的な動作によって起きたように表されます。
言い換えると、自動詞は変化を表し、他動詞はその変化を引き起こす動作を表す、と言えます。
・ドアが閉まる — Aさんがドアを閉める
(変化が生じる) (Aさんの動作が変化を引き起こす)
つまり、自他のペアには変化と動作という関係があるのです。
「~ている」という文型で考えると、それがよくわかります。
「自動詞+ている」は変化の結果の状態を、「他動詞+ている」は動作の過程を表します。
・ひもが切れています。(自動詞+ている → 変化の結果の状態)
・ひもを切っています。(他動詞+ている → 動作の過程)
このことから、自動詞は変化の結果を認識したときや、変化が起きないことをおかしいと思うときにも使われます。
・あ、電気が消えた。(変化の結果を認識したとき)
・あれ?テレビがつかない。(変化が起きないとき)
以上のことが、自動詞と他動詞の使い分けに大きくかかわっています。
自動詞と他動詞の区別が重要なことがお分かりいただけたでしょうか。
日本語では「~ている」以外にも、「~てある」や使役文などのように、初級でも自他の区別が必要な文型を多く扱います。
しかし、ここで解説したようなことを初級の学習者に日本語で理解させるのは困難です。
日本人のようにすぐに目的語の「~を」がわかるわけではないし、知っている語彙も少ないので、学習者は結局一つずつ覚えていくしかありません。
自動詞、他動詞は学習者にとってとても大変な項目なので、私たち教える側はしっかり理解して、できるだけわかりやすく教えられるよう努力する必要がありますね。
日本語の自動詞・他動詞【日本語の構造・日本語教育能力検定試験対策 】まとめ
・ 動詞は他に対して影響を及ぼす力が強いかどうかで、自動詞、他動詞に分けられる。
・ 目的語のヲ格を持つ動詞は他動詞、持たない動詞は自動詞。
・ 意味や形が似ている自動詞と他動詞のペアを自他の対応があるという。
・ 動作主が問題にされない場合、自動詞が使われる。
・ 変化を表すときは自動詞、変化を引き起こす動作を表すときは他動詞を使う。
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