日本語教育能力検定試験ではしばしば「多言語主義と複言語主義」について問われます。
多言語主義と複言語主義….
それぞれどんな特徴があるのかな….
このように感じている方もいらっしゃると思います。
本記事は「日本語教育における多言語主義と複言語主義」についてわかりやすく解説。
検定試験の対策をされている方、言語政策に関心がある方は最後までお読みください。
本メディア日本語教師キャリア マガジンを運営している「日本語教師キャリア」は10,000名以上の日本語教師が登録する業界最大規模の求人情報サービスです。非公開求人や企業からの求人など、一般には出回らないレアな求人も多数配信しています。
また「日本語教師アカデミー」は複数の日本語教師養成講座の資料を無料で一括請求できるサービスです。「検定試験合格を目指しつつ、420時間日本語教師養成講座の受講も検討してみよう」という方はぜひご利用ください。
2つの言語主義について理解しよう
検定試験において、多言語主義や複言語主義は「社会・文化・地域」「言語政策」に該当します。
この分野は出題内容が多岐にわたるので、どの項目も完璧に理解しておくことが大切です。
区分 | 主要項目 |
社会・文化・地域 | 世界と日本の社会と文化/日本の在留外国人施策/多文化共生(地域社会における共生)/日本語教育史/言語政策/日本語の試験/世界と日本の日本語教育事情 |
言語と社会 | 社会言語学/言語政策と「ことば」/コミュニケーションストラテジー/待遇・敬意表現/言語・非言語行動/多文化・多言語主義 |
言語と心理 | 談話理解/言語学習/習得過程(第一言語・第二言語)/学習ストラテジー/異文化受容・適応/日本語の学習・教育の情意的側面 |
言語と教育 | 日本語教師の資質・能力/日本語教育プログラムの理解と実践/教室・言語環境の設定/コースデザイン/教授法/教材分析・作成・開発/評価法/授業計画/教育実習/中間言語分析/授業分析・自己点検能力/目的・対象別日本語教育法/異文化間教育/異文化コミュニケーション/コミュニケーション教育/日本語教育とICT/著作権 |
言語 | 一般言語学/対照言語学/日本語教育のための日本語分析/日本語教育のための音韻・音声体系/日本語教育のための文字と表記/日本語教育のための形態・語彙体系/日本語教育のための文法体系/日本語教育のための意味体系/日本語教育のための語用論的規範/受容・理解能力/言語運用能力/社会文化能力/対人関係能力/異文化調整能力 |
多言語主義と複言語主義は検定試験でもよく出題されます。
多言語主義は「多+言語主義」で「多数の」、複言語主義は「複+言語主義」で「複数の」という意味があり、一見すると似ているように感じますが、実はそれぞれ意味が異なります。
多言語主義(multilingualism)は「multi」という接頭辞が表すように、社会において多くの言語があるという考え方で、複言語主義(plurilingualism)は「pluri」という接頭辞が表すように、個人においてさまざまな言語があるという考え方です。
言語と文化は密接に関係していることから、多言語主義は「多言語主義・多文化主義」と呼ばれたり、複言語主義は「複言語主義・複文化主義」と呼ばれたりします。
多言語主義とは?
「多言語主義(multilingualism)」は一つの社会において多くの言語が共存している状態です。
現地の人々と外国籍の人々が共生している状態がイメージしやすいかと思います。
例えば、日本にいる外国籍の人々には、就労者、留学生、インバウンド観光客など、出身国も母語も異なる人たちが大勢います。
彼らが日本社会で生活していくために、あるいは日本の観光地を回って旅行を楽しむためには、日本語で簡単な日常会話を身につけておく必要があるでしょう。しかし、日本語表記には漢字もあればひらがなやカタカナもあり、日本語の文字を読んだり書いたりするのも一苦労です。
そのために多言語主義があります。多言語主義は、日本社会で言えば、日本語以外の言語も併記されている状況です。身近なところでは、電車、地下鉄、新幹線、バス、タクシー内の多言語表示案内、空港や駅構内の多言語標識案内、ホームページ内の多言語切り替えなどが挙げられます。
多言語主義では、言語が同じだと集まりやすく、コミュニティを作りやすい傾向もあります。
日本人が海外に行って、日本人が誰もいないようなエリアで生活するよりも、日本人コミュニティがあるようなエリアで生活するほうが、日本語を使用できる点で楽です。同じことが日本で生活する外国籍の人々にも言えるでしょう。
多言語主義が浸透している社会は、現地の人々と外国籍の人々が共生しやすい社会です。
複言語主義とは?
「複言語主義(plurilingualism)」は一個人において複数の言語能力がある状態です。
母語の他に、公用語、第二外国語、現地語など、個人が複数の言語を操れるイメージです。
「ヨーロッパ言語共通参照枠(Common European Framework of Reference for Languages)」
という言葉を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。
CEFRはヨーロッパ評議会(European Council)により2001年に制定されました。欧州には複数の国がありそれぞれに言語や文化が異なりますが、ヨーロッパ評議会は、欧州内それぞれの国の言語や文化の違いを充分に理解しつつ、それぞれの国の言語や文化を相対化するため、その指針としてCEFRが作られました。
CEFRの根幹的な理念の一つが、まさに複言語主義・複文化主義なのです。
また、CEFRは複言語主義・複文化主義の他に、「共通参照レベル」や「行動中心主義」も理念としています。共通参照レベルは、A(基礎段階の言語使用者)、B(自立した使用者)、C(熟練した言語使用者)の3つに分け、それぞれの段階に1(低い)2(高い)を割り当てたものです。行動中心主義では、何かの目的を達成するために言語コミュニケーションがあると捉え、その言語を用いて何が遂行できるか(Can-do)に重きを置いています。
共通参照レベルと行動中心主義に基づき、CEFRではA1、A2、B1、B2、C1、C2の6段階とそれぞれにCan-doが設定されているのが特徴です。国際交流基金日本語国際センターが開発した「JF日本語教育スタンダード」もCEFRを参照して作成されました。
個人が複数の言語を学ぶことを通じて、他者をより尊重できるようになることが、複言語主義・複文化主義の目指すところだと言えます。
まとめ
本記事は「日本語教育における多言語主義と複言語主義」について解説してきました。
内容をまとめると….
- 「多言語主義」:一つの社会において多くの言語が共存している状態、多言語主義・多文化主義
多言語主義の例)電車、地下鉄、新幹線、バス、タクシー内の多言語表示案内
空港や駅構内の多言語標識案内
ホームページ内の多言語切り替え - 「複言語主義」:一個人において複数の言語能力がある状態、複言語主義・複文化主義
CEFRの理念は複言語主義・複文化主義、共通参照レベル、行動中心主義に基づいている
複言語主義の例)母語、公用語、第二外国語、現地語など複数話せる人
複言語主義と関連のあるポートフォリオ評価については、下記の記事でまとめています。
池田早織
運営情報最新記事 by 池田早織 (全て見る)
- 日本語教育におけるバイリンガリズムについてわかりやすく解説 - 2024/5/17
- 日本語教育における日本語の試験についてわかりやすく解説! - 2024/5/17
- 地域日本語教育コーディネーターとは?どこよりもわかりやすく解説 - 2024/5/17