日本語教育における多言語主義と複言語主義の違いを徹底解説

多言語主義と複言語主義の違いについて解説

日本語教育能力検定試験ではしばしば「多言語主義と複言語主義」について問われます。

多言語主義と複言語主義….
それぞれどんな特徴があるのかな….

このように感じている方もいらっしゃると思います。

本記事は「日本語教育における多言語主義と複言語主義」についてわかりやすく解説。

検定試験の対策をされている方、言語政策に関心がある方は最後までお読みください。


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2つの言語主義について理解しよう

検定試験において、多言語主義や複言語主義は「社会・文化・地域」「言語政策」に該当します。
この分野は出題内容が多岐にわたるので、どの項目も完璧に理解しておくことが大切です。

区分主要項目
社会・文化・地域世界と日本の社会と文化/日本の在留外国人施策/多文化共生(地域社会における共生)/日本語教育史/言語政策/日本語の試験/世界と日本の日本語教育事情
言語と社会社会言語学/言語政策と「ことば」/コミュニケーションストラテジー/待遇・敬意表現/言語・非言語行動/多文化・多言語主義 
言語と心理談話理解/言語学習/習得過程(第一言語・第二言語)/学習ストラテジー/異文化受容・適応/日本語の学習・教育の情意的側面
言語と教育日本語教師の資質・能力/日本語教育プログラムの理解と実践/教室・言語環境の設定/コースデザイン/教授法/教材分析・作成・開発/評価法/授業計画/教育実習/中間言語分析/授業分析・自己点検能力/目的・対象別日本語教育法/異文化間教育/異文化コミュニケーション/コミュニケーション教育/日本語教育とICT/著作権
言語一般言語学/対照言語学/日本語教育のための日本語分析/日本語教育のための音韻・音声体系/日本語教育のための文字と表記/日本語教育のための形態・語彙体系/日本語教育のための文法体系/日本語教育のための意味体系/日本語教育のための語用論的規範/受容・理解能力/言語運用能力/社会文化能力/対人関係能力/異文化調整能力

多言語主義と複言語主義は検定試験でもよく出題されます。

多言語主義は「多+言語主義」で「多数の」、複言語主義は「複+言語主義」で「複数の」という意味があり、一見すると似ているように感じますが、実はそれぞれ意味が異なります。

多言語主義(multilingualism)は「multi」という接頭辞が表すように、社会において多くの言語があるという考え方で、複言語主義(plurilingualism)は「pluri」という接頭辞が表すように、個人においてさまざまな言語があるという考え方です。

言語と文化は密接に関係していることから、多言語主義は「多言語主義・多文化主義」と呼ばれたり、複言語主義は「複言語主義・複文化主義」と呼ばれたりします。

多言語主義とは?

多言語主義 多様な人々

「多言語主義(multilingualism)」は一つの社会において多くの言語が共存している状態です。
現地の人々と外国籍の人々が共生している状態がイメージしやすいかと思います。

例えば、日本にいる外国籍の人々には、就労者、留学生、インバウンド観光客など、出身国も母語も異なる人たちが大勢います。

彼らが日本社会で生活していくために、あるいは日本の観光地を回って旅行を楽しむためには、日本語で簡単な日常会話を身につけておく必要があるでしょう。しかし、日本語表記には漢字もあればひらがなやカタカナもあり、日本語の文字を読んだり書いたりするのも一苦労です。

そのために多言語主義があります。多言語主義は、日本社会で言えば、日本語以外の言語も併記されている状況です。身近なところでは、電車、地下鉄、新幹線、バス、タクシー内の多言語表示案内、空港や駅構内の多言語標識案内、ホームページ内の多言語切り替えなどが挙げられます。

多言語主義では、言語が同じだと集まりやすく、コミュニティを作りやすい傾向もあります。
日本人が海外に行って、日本人が誰もいないようなエリアで生活するよりも、日本人コミュニティがあるようなエリアで生活するほうが、日本語を使用できる点で楽です。同じことが日本で生活する外国籍の人々にも言えるでしょう。

多言語主義が浸透している社会は、現地の人々と外国籍の人々が共生しやすい社会です。

複言語主義とは?

複言語主義 混ざる絵具

「複言語主義(plurilingualism)」は一個人において複数の言語能力がある状態です。
母語の他に、公用語、第二外国語、現地語など、個人が複数の言語を操れるイメージです。

「ヨーロッパ言語共通参照枠(Common European Framework of Reference for Languages)」
という言葉を聞いたことがある方も多いのではないでしょうか。

CEFRはヨーロッパ評議会(European Council)により2001年に制定されました。欧州には複数の国がありそれぞれに言語や文化が異なりますが、ヨーロッパ評議会は、欧州内それぞれの国の言語や文化の違いを充分に理解しつつ、それぞれの国の言語や文化を相対化するため、その指針としてCEFRが作られました。

CEFRの根幹的な理念の一つが、まさに複言語主義・複文化主義なのです。

また、CEFRは複言語主義・複文化主義の他に、「共通参照レベル」や「行動中心主義」も理念としています。共通参照レベルは、A(基礎段階の言語使用者)、B(自立した使用者)、C(熟練した言語使用者)の3つに分け、それぞれの段階に1(低い)2(高い)を割り当てたものです。行動中心主義では、何かの目的を達成するために言語コミュニケーションがあると捉え、その言語を用いて何が遂行できるか(Can-do)に重きを置いています。

共通参照レベルと行動中心主義に基づき、CEFRではA1、A2、B1、B2、C1、C2の6段階とそれぞれにCan-doが設定されているのが特徴です。国際交流基金日本語国際センターが開発した「JF日本語教育スタンダード」もCEFRを参照して作成されました。

個人が複数の言語を学ぶことを通じて、他者をより尊重できるようになることが、複言語主義・複文化主義の目指すところだと言えます。

まとめ

本記事は「日本語教育における多言語主義と複言語主義」について解説してきました。

内容をまとめると….

  • 「多言語主義」:一つの社会において多くの言語が共存している状態、多言語主義・多文化主義
    多言語主義の例)電車、地下鉄、新幹線、バス、タクシー内の多言語表示案内
            空港や駅構内の多言語標識案内
            ホームページ内の多言語切り替え
  • 「複言語主義」:一個人において複数の言語能力がある状態、複言語主義・複文化主義
    CEFRの理念は複言語主義・複文化主義、共通参照レベル、行動中心主義に基づいている
    複言語主義の例)母語、公用語、第二外国語、現地語など複数話せる人

複言語主義と関連のあるポートフォリオ評価については、下記の記事でまとめています。

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池田早織

運営情報
フリーランスの日本語教師兼ライター。日本語教育能力検定試験合格、日本語教師養成講座420時間修了。公的教育機関での常勤講師、技能実習生向けの日本語会話動画作成など、社会人や留学生、外国人児童・生徒への指導を含め上級者から初級者まで幅広く経験。アジア圏、欧米圏問わずこれまで約5,000人以上の指導に携わる。
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