ミニマルペア (minimal pair) とは、直訳すると最小のペア、つまり語の最小単位のペアということですが、これだけ聞いてもどういうことかよくわかりませんよね。
この記事では、今年日本語教育能力検定試験を受けようと思っている方や、日本語教師養成講座を受講中の方に向けて、ミニマルペアについて詳しく解説していきます。
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ミニマルペアとは
ミニマルペアとは1カ所の音の違いだけで意味が区別できる単語のペアのことです。
例えば「さか」/saka/と「たか」/taka/という2語を見てみると、/s/と/t/の1カ所だけが違い、/-aka/の部分は同じです。
この「さか」/saka/と「たか」/taka/のペアをミニマルペアと言います。
そして、/s/や/t/のように、意味を区別することができる最小の音の単位を音素と言います。
音声学では、ミニマルペアは通常この音素を決定するために使われてきました。
音素とは
先ほども書いたように、音素とは単語の意味を区別する働きのある最小の音の単位です。
例えば、日本語で「さか」/saka/と言う場合、[saka]と発音しても[θaka]と発音しても、単語の意味に違いはありません。
つまり日本語の音素/s/には、[s]や[θ]の音があり、どちらで発音しても「さか」/saka/として認識される、ということです。
一方英語の場合、”sink”[sink]と”think”[θink]は別の単語として認識されるので、[s]と[θ]は、別の音素として区別されていることがわかります。
このように音素は言語によって異なり、人は音素によってその言語の単語を聞き分けていると言えます。
そして一カ所の音素の違いによって区別される単語のペアを、ミニマルペアと言っているのです。
これを言い換えると、ミニマルペアは語の最小単位の対立、ということになりますね。
ミニマルペアには、上の例のような子音の対立だけでなく、母音の対立、撥音「ん」/N/、促音「っ」/Q/、長音「―」/R/のような特殊音素の有無による対立もあります。
日本語のミニマルペアの例
それでは、日本語のミニマルペアの例を見ていきましょう。
ここで紹介するものがすべてではありませんが、ミニマルペアがどのようなものか理解するために、一例として確認しておきましょう。
子音の対立
・/r/と/n/
はら(腹) ― はな(花)
くり(栗) ― くに(国)
まれ(稀) ― まね(真似)
・/k/と/g/(清音と濁音)
かき(柿) ― かぎ(鍵)
あける(開ける) ― あげる
かっこう(恰好) ― がっこう(学校)
・/t/と/d/(清音と濁音)
てんき(天気) ― でんき(電気)
たんす ― だんす(ダンス)
とう(塔) ― どう(銅)
母音の対立
・/a/と/o/
あう(会う) ― おう(追う)
いた(板) ― いと(糸)
まつ(待つ) ― もつ(持つ)
撥音の有無
ぶか(部下) ― ぶんか(文化)
こま ― こんま(コンマ)
かだん(花壇) ― かんだん(歓談)
促音の有無
ぶか(部下) ― ぶっか(物価)
きて(来て) ― きって(切手)
おと(音) ― おっと(夫)
長音の有無
おばさん ― おばあさん
ゆき(雪) ― ゆうき(勇気)
とる ― とおる(通る)
ミニマルペアを使った指導
では、ミニマルペアは日本語の指導としてはどのように活用されているのでしょうか。
ここからは、ミニマルペアを使った指導について見ていきます。
ミニマルペア練習は単語の聞き分けや言い分けの練習として、オーディオリンガルメソッドで取り入れられた指導法です。
→オーディオリンガルメソッドの特徴まとめ
現代の言語学習においては、特に初級の学習者の発音指導やリスニングで利用されています。
先ほど書いたように、音素は言語によって違うので、日本語では意味を区別するために使われる音素が、学習者の母語では音素として区別されない、ということがあります。
音が音素として区別されなければ、耳に入っていてもその音は無視されてしまいます。
そのため、日本語を初めて勉強する学習者にとって、音を正しく聞き取って、それを意味のある単語や文型として認識するのは、とても大変です。
このようなとき、ミニマルペアを使った聞き分けや言い分けの練習は大変有効です。
また撥音や促音などの特殊音素は、必ず単独で拍を形成する(一拍として数える)音素なので、特殊音素のミニマルペアは日本語の拍を認識する練習としても使われます。
さらに、音素だけでなくアクセントやイントネーションの違いをミニマルペアとして練習に取り入れる場合もあります。(箸 ― 橋、そうですか(↘) ― そうですか(↗)など)
練習の仕方としては、上で挙げたようなミニマルペアを学習者に見せ、音声教材や教師が言った単語がどちらだったか指摘させる、というやり方が多いようです。
またその際に、教師は学習者の母語などから、あらかじめ認識しにくい音や発音しにくい音を想定して練習に取り入れることも大切だと思います。
『5分でできるにほんご音の聞きわけトレーニング』(宮本 典以子、大崎 伸城 著)という教材は、聞き分けの練習に大変役に立つと思います。
このようにミニマルペアを使った練習は、実際の日本語学校の現場でも取り入れられている練習法の一つです。
日本語教育能力検定試験でも出題される可能性があるので、しっかり理解しておくとよいでしょう。
まとめ
- ミニマルペアとは1カ所の音素の違いだけで意味が区別できる単語のペアである。
- 音素とは意味が区別できる音の最小単位で、言語によって異なる。
- ミニマルペアは初級の学習者の単語の聞き分けや言い分けの練習として使われる。
日本語教師キャリア マガジン編集部
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